Japanese
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特集 現代社会と家族—諸病態との関連から
現代社会と家族—総説に代えて
Society and Family Today in Japan
藤縄 昭
1
Akira Fujinawa
1
1国立精神・神経センター精神保健研究所
1National Institute of Mental Health, National Center of Neurology and Psychiatry
pp.564-569
発行日 1989年6月15日
Published Date 1989/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405204715
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I.はじめに
今回の特集は精神科臨床で遭遇する諸病態との関連で,「現代社会と家族」を概観するのが目的である。筆者に与えられた課題はその総説を執筆することであった。しかし文献を調べるうちに,とくに2つの点で筆者の能力を越えることがわかった。1つは「現代社会と家族」というときの,接続助詞「と」をどのように受け止めればよいかという問題であり,2つは「現代社会」を精神医学の立場からどのように捉えて考案を進めるのが適切か見極めかねたからである。『現代社会における家族』,あるいは『現代の家族』という意味合いで,我々の経験する現代日本の家族の問題点を臨床を通じてみることはできる。しかしそこにも陥し穴がないわけではない。
例えば家庭内暴力,登校拒否,非行などで受診した青年がいるとする。明らかに親子の断絶があることが判り,その青年の問題は家族全体の問題であろうと直観的に感じさせる。しかも,父は戦後日本の高度経済成長を支えてきた人であり,母は学歴社会を生き抜くように子供の教育に熱心であり,その一方で高齢化社会の,つまり姑の痴呆の介護という課題に手をとられ,息子は若者文化への傾斜が強い。家族の問題はまたそれぞれに現代社会を反映している。陥し穴というのは臨床の窓を通してみていると,短絡的に現代の社会病理,家族病理を論うことになる危険がありはしまいかという思いのことである。
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