特集 精神分裂病の遺伝因と環境因
結語に代えて
井上 英二
1
1東京大学医学部脳研究施設
pp.808-809
発行日 1979年7月15日
Published Date 1979/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405202966
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現在はすでに,分裂病を直接の対象とした研究から離れている筆者にとって,この特集に寄せられた14篇の総説のとりまとめを試みるということは,かなり気の重い課題である。14篇の論文は何れも,細部に亘っての記述はさておき,それぞれの角度から分裂病の“病因”に近づこうとする目的に沿って,指導的な立場にある人々や新進気鋭の研究者達が,自らの経験を要約ないし,枠組みとして,観察された事実あるいは学説を再構成して提示した何れ劣らぬ労作であるからである。
さて“分裂病の病因”を問題にする時,いつでも最初に提出される疑問は,“分裂病とは何か”という疑問である。その提出のされ方には人により場合により,微妙な色調の違いはあっても,共通する立場は,まだ対象が定義されなければ,その対象の成立過程における因果性は追求できないという認識である。竹友氏が紹介されたWHOのIPSSは,分裂病の定義の問題を正面切って取り上げた最大規模の研究プロジェクトであり,またこのプロジェクトは,異なった“文化圏”の間の対話を促進し,精神障害の問題を共通の地盤で扱う時の条件を整備するというすぐれた副産物を生むことであろう。
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