- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
B.補遺
〔前半部分省略〕
病因論的見方は内因性疾患の領域においておそらく最も恵み豊かな成果をあげている。この領域ではこの見方が,変質の概念を中心に置き種々の病型を変質の様々な形態として理解するよう教示することによって,まさに救済を提示しているのである。しばしばこのことはまだ理解されていないのだが,しかし近年病因論の原理のおさめた勝利が一つある。すなわちクレペリン(Kraepelin)の教科書第5版の出版である。クレペリンは精神病の症状的な観察法から臨床的なそれへと最後の決定的な一歩を印したのだと自ら述べている。実際に彼は完全に私と立場を同じくしている。なぜなら彼はA.後天性精神障害(Erworbene Geistesstörungen)とB.病的素因から発生する精神障害(Geistesstörungen aus krankhafter Veranlagung)とを区別しているからである。確かに彼の一歩は決定的なものであるが,しかしまだ最後の一歩ではない。クレペリンは内因性精神疾患の中に以下の4つの章を設けている。(1)体質性精神障害(周期性精神病とパラノイア),(2)全般的神経症(てんかん性精神病とヒステリー性精神病),(3)精神病質性諸状態あるいは変質精神病(体質性気分変調,強迫精神病,衝動性精神病,性的感覚の倒錯),(4)発達抑制(痴愚と白痴)。クレペリンは,好むと好まざるにかかわらず,事実のもつ力によってさらにこれを作りかえる作業にとりかかることを余儀なくされるであろう,と予言してよいと思う。病的素因は変質と同じものなのであるから,彼は将来変質という持続状態を記述すること,すなわち一方で先天性の白痴(Blödsinn)と精神薄弱を,他方で不均衡を記述することから着手せねばならないことになろう。軽度の先天性精神薄弱から神経質の最も軽微な病型にまで及ぶ不均衡に関する章が,将来精神医学の教科書の中で最も重要な章となるだろう。というのも不均衡は内因性精神病の個々の病型が萌芽する土壌であり,この病型を理解しようとする人はこの土壌を研究せねばならないからである。不均衡を冒頭に述べておくことによって,移行型が優位に出現することも理解されることになるだろうし,この優位性についてはクレペリンが現在すでに行っているよりもさらに強く強調せねばならなくなるだろう。内因性精神障害の像には明確な輪郭がみられず,ある色が別の色に対して明確に際立っているようなところはどこにもなく,すべての移行は流動的であり,いくつかの純粋な色が無数の色調の変化によって結びつけられている。一人一人の精神病者はそのままで一つの病型であると以前言われていた,このことばの中に真実が存在しており。また精神的に高度に発達した人が発病し,しかもそれが精神病の上位の病型(例えば周期性精神障害)である場合には,この個体性の意味するものが特に際立って現われてくるだろう。不均衡の記述に続いてまず一過性の偶発状態,すなわち強迫表象や病的欲動等が記述されることになろう。そのあとで,明瞭な特色をもったすべての病型〔デプレッション,マニー周期質(Periodicität),妄想性要素(paranoische Elemente)〕の胚が不均衡の徴候として,そしてまた神経質の範囲において,いかに観察されるかということが示されるべきであり,そうすれば次に古典的諸病型の記述が続けて行われる時,学生はこれらが一つの木の様々な枝であることを理解するのである。以上のことに従えば内因性精神病(endogene Psychosen)〔の章〕の内容は例えば次のような外観になるだろう。
Copyright © 1988, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.