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Ⅰ.自閉症における予後調査の意義
米国の精神医学者Kanner, L.(1943)25)が感情的接触の自閉的障害autistic disturbances of affective contactとして11例の症例を報告したことに始まる小児自閉症は,常にその予後が臨床家の関心の的であった。分裂病や躁うつ病などが,その予後や経過から定義されたのと異なり,小児自閉症(以下自閉症と略述)は症状論的記述によって定義されている。したがって,その定義に合致する小児が成人した時にどのような状態であるかを明らかにすることは自閉症の本質の解明に示唆を与えるものであることは疑問の余地はない。さらに,こんにちでは義務教育終了後の自閉症青年の処遇を具体的にどうするかを考えるためにもぜひ明らかにしておきたいという現実的意味をもつに至っている。
一般に知られている自閉症の追跡調査としてはEisenberg, L. ら13),Rutter, M. ら39,40,60,61),Kannerら26〜28),DeMyer, M. K. 10)ら,Lotter, V. 41,42)のものがあって,それぞれ自閉症研究史上,大きな意味をもっている。Eisenberg, LおよびKanner13,26)のものは,いうまでもなく自閉症概念の創始者による自験例の追跡調査であるので,それ自体が自閉症概念に補足を加えたことになる。RutterらのものはMaudsley病院を訪れた患者を対象に,さらに同じ時期に同病院を訪れ,性,年齢,平均知能指数を一致させた非精神病性の脳障害児を統制群とした追跡調査であり,DeMyerらのものは同じく非自閉症性の障害児を統制群に選び,自閉症児群のほうも重症度や知的水準によって3群にわけ,それぞれの予後を多角的に解析したものである。これに対し,LotterのものはイングランドのMiddlesex州で行った疫学調査の対象例の追跡調査であって,一つのクリニックの症例という特定の一群ではなく,地域でのサンプリング調査ということで前2者とは異なった臨床的意味をもっている。これらはすべて,1970年代の初頭までのものであって,以後,こうした大規模な予後調査は下火になっている。しかし,その間には青年期,成人期になった自閉症についての広範な知見が蓄積されてきている。
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