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創刊30周年記念特集 精神医学—最近の進歩 第2部
現象学的精神病理学と“主体の死”—内因の概念をめぐって
Phenomenological Psychopathology and "Death of Subject"
木村 敏
1
Bin Kimura
1
1京都大学医学部精神医学教室
1Department of Psychiatry: Kyoto University School of Medicine
pp.381-388
発行日 1988年4月15日
Published Date 1988/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405204496
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Ⅰ.内因の概念と精神病理学
内因性精神病の精神病理学について“最近の進歩”を語ることは不可能に近い。そもそも「内因性精神病」という概念自体がひどく大時代なものだし,精神病理学という分野に果たして“進歩”と言えるようなものがありうるかどうかも疑わしい。そこで本論においては,筆者自身が特に関心を向けているいくつかの概念について,その最近の動向を取り上げることで一応の責を果たすことにしたい。
精神病理学はいわゆる内因性精神病のみを研究対象にしているわけではない。神経症や性格障害も身体因性の精神障害も,言うまでもなくその対象になりうるし,内因性精神病の精神病理学は事実その方法の多くを“非内因性”疾患の精神病理学的知見に負うている。しかし精神病理学,ことに人間学的・現象学的と呼ばれる精神病理学が,その誕生以来つねに中心的なテーマとして求め続けてきたのは,ほかならぬ精神分裂病と躁うつ病,それにその周辺疾患という内因性精神病の理解であったし,またそれが精神医学の他の諸分野とは際立って違った(例えば哲学的概念の頻用といった)特徴を備えているのは,それが「内因性」の病態を扱おうとしていることと無縁ではないのではないかと思われる。さらに言うならば,現代の精神医学において「内因性」というような概念が―合理的・客観主義的な精神医学からみれば許しがたく曖昧なこの概念が―まだ残されているということ自体のうちに,精神病理学の“隠れ家”があるのかもしれない。「内因」の語にまつわるネガティヴな性格をそのまま反転してポジティヴなものにしてやれば,それがそのまま精神病理学のレゾン・デートルになるのではないか,ということなのである。
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