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I.はじめに
リチウム(Li)は現在躁病の治療薬として世界中で広く使用されているが,その研究の歴史は古く,今から40年近く前,つまり抗精神病薬が登場する以前の1949年にオーストラリアのCade2)により"Lithium salts in the treatment of psychotic excitement"と題する論文で報告された。Cadeが躁病にLi療法を試みたのは単なる思いつきではなかった。彼は躁病患者の尿をモルモットに投与したところ致死率が対照尿より高かったことから,躁病患者の異常行動は中枢神経系由来の尿酸が尿中に増加し,尿素の毒性を強めるたあと推測した。そこで水溶性の高い尿酸Liと尿素をモルモットに同時投与したところ,予想に反して尿素の毒性が弱められ,静穏作用も認められた。この作用がLiによることが確認できたため,臨床応用に踏み切った。しかしLiの中毒作用への危険意識が強く,その躁病に対する臨床効果が認められるためにはそれから約10年の歳月を要した。1954年からSchouら14)によってLiの躁病に対する有効性と安全性が再検討された結果,臨床応用可能であることが報告され,1960年代から使用され始めた。その後多くの臨床研究が積み重ねられ,Liの抗躁効果のみならず躁うつ病予防効果や抗うつ効果も報告されている。
Liはナトリウムやカリウムと同じ1価のアルカリ金属であるが,なぜこの単純なイオンが複雑な精神機能に作用するのかは大きな疑問である。Liの薬理作用に関しては膨大な数の研究が報告されているが,その内容は抗うつ薬の場合と同様に中枢モノアミン代謝およびその受容体に関する研究が多い。躁うつ病の病因に中枢セロトニン(5-HT)が重要な役割を演じていることは,本特集の他の著者によってすでに述べられている通りである。本稿では著者らの動物実験の結果をもとに中枢5-HT機能に及ぼすLiの薬理作用を,5-HT作動性神経の前シナプス機能と後シナプス機能に分けてまとめ,さらにこれらの神経化学的変化と行動変化の相関についても検討し,臨床効果との関連性を考察してみたい。
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