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序文
Kraepelinの学説は,大部分の内因性精神病を躁うつ病と早発性痴呆に分けた。彼の学説は,主として経過予後に重きを置いたものであり,確かにそれは,内因性精神病の予後を手にするための最初の名高い近代的な試みであった。真の躁うつ病は,分裂病に比べ,平均して,破壊的,持続的に人格に影響を及ぼすことが少ない,という確認は,非常に価値のある知見であったし,それは今日でもなお正当性を持っている。
にも拘らず,個々の症例の予後については,依然として不十分であった。疾病単位,つまり互いに鋭く区分可能な大きな疾患群というKraepelinの考えは,まさしく内因性精神病の領域で,ともかく現実に即して疾患型--これらは互いに絡み合った変質的遺伝プロセスの系のもつれから,ある特定の系の組み合わせが高頻度に起こることによって際立って出てくる--の樹立を認めていこうとする現実の臨床観察と非常に敏感に衝突するのである。とりわけ,内因性精神病の縦断面を全て概観できる経験を積んだ精神病院の精神科医は,この病気がいかにしばしば,単純なKraepelinの予後図式とは全く別様に経過するのかを,とっくの昔に知っていた。例えば,最初躁病あるいはうつ病だったものが,いかにしばしば慢性化し,陳旧性分裂病から殆ど区別されないかを知っていた。他方,急性緊張病性シュープが,いかにしばしば治癒し,あるいは,ある時は確かに,人格の深い破壊を起こさずに,周期性に再発するのかを知っていた。こうして,臨床予後学の領域では,ある特定の諦念,つまりKraepelinの学説をあえて完全に否定しようとはしないが,しかし同じように,彼の学説をあえてしかるべく実際的に利用しようともしない諦念が,はびこったのである。
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