巻頭言
精神科医の適性
岩崎 徹也
1
1東海大学精神科教室
pp.228-229
発行日 1987年3月15日
Published Date 1987/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405204294
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近年,医学部入学試験にあたって学力のみでなく医師になるための適性を評価することの必要性が強調されている。このような動きの背景として,学力が高くとも良い医師に成長するとは限らない場合があることを認識し,十分な適性をもかね備えた入学者を選びたいとの積極的な理由があるのはもちろんである。しかしまた,医師過剰時代がさし迫ったものとなるにつれて急速に生じた医学部志願者の学力水準の全体的な低下にともなって,それならばせめて人格や医師としての適性の優れた者を入学させたいという消極的な事情も関与しているようである。そして,そのための具体的な方法として,面接,作文等々が実施され,また各大学ごとに独自の工夫がなされていると聞く。
しかしひとくちに適性を評価するといっても,その実際はなかなかむずかしいのも事実である。そもそも医師としての適性とは何かが,容易に結論づけられるものではない。またその適性をいかなる方法によって評価するのかにも多くの困難を含んでいる。数分間の面接や一篇の作文をみて,どこまでその人間を評価出来るものか,限界があるのは当然である。外国の大学の一部では,学力試験で一定の水準に達していた受験生一人一人について,教授陣が数時間ないし数十時間をかけて面接を中心とした評価を重ねるという。医学生一人あたりにかかる6年間の教育費を考えると,入学時の選考にその位の時間と労力をかける意義は十分にあると思われるが,それを実行するゆとりがないのが現状であろう。
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