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本特集は東京都精神医学総合研究所が創立10周年を記念して行なった第12回精神研シンポジウム「精神分裂病の成因と治療―その生物学的アプローチ」の講演を集めたものである。昭和58年11月5日にこのシンポジウムが行なわれてからすでに1年半近く経過しており,その間においても分裂病に関する新らしい知見が次々と報告されており,報告者としてもどの時点においての知見に限るかということに困難を覚えられたのではないかと思う。融道男氏は「分裂病脳における神経伝達の異常」と題して1980年以来手がけられた分裂病および対照の死後脳についてドーパミン,ホモバニリン酸,チロシン水酸化酵素,D2受容体,グルタミン酸ニューロンの検索を行なった結果を述べた。
対象とした分裂病脳は10例で,前頭前野,大脳基底核,視床脳幹諸核の分析が行なわれた。ドーパミンでは尾状核,被殻,側坐核では対照群との間に有意差はなくむしろ低い位であり,黒質,赤核,視床下核でも有意差はなかった。ホモバニリン酸は被穀と黒質で有意に分裂病群の値が高く,また服薬群の方が特に高かった。チロシン水酸化酵素は尾状核,被殻,黒質,赤核,視床下核など,すべての部位で分裂病群の値が有意に高かった。D2受容体については被殻では特に差を認めず,グルタミン酸ニューロンについては内側前頭皮質,眼球運動領野の,3H-カイニン酸受容体の増加,この値とグルタミン酸値との負の相関,チロシン水酸化酵素との正の相関を認め,グルタミン酸ニューロンの活動低下が推定された。山本健一氏は「分裂病モデルとしての6-Hydroxydopamine投与動物」と題した報告を行なった。6-Hydroxydopamine(6-OHDA)はカテコールアミンニューロンの選択的神経毒であり,その神経終末を変性死滅させるためにしばしば用いられている。6-OHDAの脳室内投与によっておこる動物の異常行動また猫での皮膚電気反応の観察から,6-OHDA投与動物が,分裂病研究のための一つの動物モデルと考えられている。さらに皮膚電気反応の変化は,DA系ではなくNA系によって発生するものであり,それらの事実から分裂病の基本障害はDA系よりもむしろNA系によって説明し得るという見解が述べられた。伊藤斉氏は「分裂病の薬物療法―現状と検討」と題して先ずわが国における薬物療法の現状として外国に比して抗精神病薬の多剤併用の傾向が明らかなこと,さらに抗パーキンソン薬,抗不安薬,抗うつ薬,睡眠薬の併用が高率でpolypharmacyの傾向が欧米より顕著であることが指摘された。次いで抗精神病薬の薬物動態と臨床効果,副作用との関連,現在の抗精神病薬のより合理的な治療的応用の可能性,難治例についての検討,分裂病の薬物療法をさらに一歩前進させるための新らしい薬物の出現に対する期待,現在の抗精神病薬についての長期使用に伴う有害作用,特に遅発性ジスキネジアの問題が述べられた。諸治隆嗣氏は「神経ペプチドによる慢性分裂病の治療」と題して,コレチストキニン(CCK-8)による治療効果について述べた。Hökfeltらによると中脳-辺縁DAニューロンにDAとともにCCK様ペプチドが共存していて,DAの放出がCCK-8によって抑制されることが見出されている。そのことから分裂病の病囚の一つとしてDAとCCK様ペプチドの不均衡が考えられるようになったのである。その後世界各地で検討されているが,その有用性の評価は一致していない。しかしながら分裂病の病因論にかかわるトピックスとして今後の検討が期待されている。
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