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1.はじめに
日本と韓国は,文字どおり一衣帯水の関連にある。民族的には同一人種といえるし,言語的にも同じウラル・アルタイ言語圏に属していて,文法やことばのはしはしまで共通していることが多い。日本人の起源すらも,朝鮮半島から渡来した部族が最多を占めているのではないかと考えられている。このような同朋的な密接な関連を歴史的に有している日韓関係であるが,明治維新以来,日本支配層の侵略と日韓併合が歴史の流れの中で起き,日韓両国民に一つの大きな汚点が生じたことは否めない。しかしそれを克服し,第二次世界大戦後,日韓両国の急速な発展により両国が世界の中で占める立場が急速度に高まっている。更に近年は,日本以上に韓国の発展速度はめざましく,日韓両国はいろいろな面でパートナーとして手を携えながら世界に貢献できるところ迄来つつあるといえよう。精神医学においては,経済的発展と同じ歩調にはいかないが,着実に基礎固めができつつある。一般に文化の発展には時間がかかるものであり,その意味で,日韓の産業が世界に及ぼしている影響ほど,両国の精神医学が世界に末だ影響を及ぼしていないとしても,やむをえないといえるであろう。いわばこれからの発展と向上が期待される領域であるといえるのである。例えば日本の精神医学の流れをふりかえってみると,諸外国の精神医学の輸入から始まったのであった。そして,諸外国の精神医学を吸収して日本に紹介する人々が大学者と呼ばれていたのである。むろん,内村のアンモン角硬化とけいれん発作の関連のように,大きな業績も数多くあったが,総体としては圧倒的に輸入文化にたよっていたわけである。そして,そのような風潮に染まった学者達は,諸外国を追い越そうとはなかなか考えられなかったのも無理ないことであったといえるであろう。しかし,近年に至ると,国際学会で活躍する日本人も年々多数となり論文の輸出も多くなってきた。これは,日本の国力の発展からみて自然な流れといえるが,いわば,現在は,吸収から貢献への過渡期にあたるといえるかもしれない。そのためにも今後は,諸外国の業績は吸収するとしても,オリジナリティに富んだ研究にもより一層携わって,世界の精神医学の発展への貢献をめざしていかなければならないし,少くともそれだけの気宇をもつことが求められているといえよう。
そのような時代的背景をもった時期に韓が日本を訪れ,慶応義塾大学精神神経科学教室にて長期の共同研究を行った。そこで,この機会に日韓両国精神医学の現状比較や,韓国精神医学の歴史を比較的詳細にまとめることの意義は大であると考え,本論文をまとめたものである。なお作田は,韓国精神医学会とたびたび関連をもち,その様子を日本に報告したことがある。
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