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1985年4月14日から18日まで,鳩谷龍三重大学名誉教授を会長,高橋三郎滋賀医科大学教授を事務局長として,京都で第16回国際精神神経内分泌学会(International Society of Psychoneuroendocrinology,ISPNE)が開催されるのを機に,いささか宣伝めいたり,懐古的になったりするきらいがあるかもしれないが,この学会についての紹介や,この領域についての感想などを述べてみたい。基礎と臨床を含めた多面的で包括的な研究の場をもつことは,精神医学だけでなく現代医学において強く要請されるところであるが,本学会もそのような場の一つとして,国際神経化学会や国際神経精神薬理学会と相前後して,1969年にミラノで設立され,1970年6月にニューヨークで第1回の学会がもたれた。その記録は“Influence of hormones on the nervous system(Karger,1971)”として出版されている。その後,薬理関係の学会ほど華やかではないとしても,基礎,臨床を問わず多くの方面の研究者を集めて着実に発展してきたといえよう。総会以外の活動も多く,例えば日本では,1973年に三重県賢島でワークショップがもたれ,その記録は“Psychoneuroendocrinology(Karger,1974)”として刊行されている。従来,総会はアメリカとヨーロッパで交互に開催されており,1985年度はアメリカのはずであったが,多くの会員の要望によって日本で行われることになったのは,まことに喜ばしいことである。
psychoneuroendocrinologyという言葉を用いる時,Max Reissの名を忘れることは出来ず,実際,1975年に創刊された学会の機関誌“Psychoneuroendocrinology”の第1頁には,彼の写真が飾られている。彼は,精神医学の発展のためには,単なるneuroendocrinologyだけではなく,どうしてもpsychoneuroendocrinologyが必要であると考え,この学会の創設を呼び掛けるとともに,第1回学会の会長をつとめた。しかしその折,開会の辞と“Clinical and basic neuroendocrine investigation in some states of mental retardation”という発表を残して,わずか1カ月後に70歳で逝去された。ReissのおられたニューヨークStaten島のWillowbrook State Schoolには,若生年久,山下格,由良了三,服部尚史,高橋三郎といった先生方が留学しておられたので,面識を得る機会のなかった小生がReissのことについて触れるのはやや場違いの感がある。しかしReissが編集した“Psychoendocrinology(Grune & Stratton,1958)”という本に新鮮な感銘を受け,精神内分泌学に関心を抱くようになった者は少なくないであろう。この本は200頁あまりの小冊子で,今日ではもはや古めかしく感じられる部分も多いが,Reiss自身が書いた冒頭の章の中には,現在この領域が注目を集め,めざましく発展しているだけに,もう一度振り返って傾聴すべき点があるように思われるので,二,三の点について紹介してみたい。
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