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Ⅰ.緒言
精神機能と内分泌機能との関係についての研究は病的状態のそれから出発しており,その研究方向はおおむね,内分泌疾患における精神症状の把握,逆に精神疾患における内分泌障害の検索,および治療に伴う両者の相互関係の検討の3つの面に向けられてきた。それぞれの時代の内分泌学の進歩に呼応して,多くの研究を生んでいるが,とくに最近10数年間における内分泌学の進歩はめざましいものがあり,その新しい知見と方法の導入の下に,この方面の研究は精神病の身体病理に新生面を開きつつある。endocrino-psychiatrie (Abély) endokrinologische Psychiatrie (M. Bleuler) psychoendocrinology (Reiss) などの用語を冠した著書の出現もこのような動向の現われといえよう。しかしながら,M. Bleulerも指摘する如く,この方面の研究にたずさわる研究者の多くは,精神医学の知識を欠いた内分泌学者であつたり,内分泌学の知識に乏しい精神医学者である場合が多いために,その研究方法や研究結果の解釈に問題がある場合が少くない。
周知の如く,内分泌系に於ては視床下部—下垂体系が中枢的役割を演じているが,視床下部は,上位中枢,あるいは末梢からの刺激に応じ,下垂体に影響を与え,下垂体は各troPhic hormoneを分泌して,下位の内分泌器官を支配し,各内分泌器官よりのホルモンはさらに身体組織や脳組織の機能に作用する。また末梢内分泌系のホルモン分泌状態は,いわゆる,feed back mechanismにより,逆行的に視床下部—下垂体系を調整する。このように,内分泌系は機能環を形成し,自律神経系と関連しつつ,生体の適応過程において重要な部分を占めている。さらにホルモン代謝の重要な器官として肝臓が介在し,この機能環に大きな影響を与えることも忘れてはならない。したがつて内分泌系における所見は,生体のhomeostasisの一局面の反映であり,情動変化や身体条件により,二次的に右左され得ることは自明である。それ故に,精神疾患においてある内分泌的異常所見を認めたとしても,それを直ちに病因的意味を持つものと見做すことができないことはもちろんであり,ましてや,ある単位疾患の背後に一定の内分泌障害を病因として求めようとするようなことは,無意味に近いであろう。いうまでもなく,精神医学が対象とする現実の病者にあつては,それぞれ個有な素質と環境により形成せられた全人格的な適応の機構が,なんらかの原因によつて挫折しているわけであるが,その際,精神機能の解体の様式にはある程度の類型がある。あえて図式的にいえば,解体の速度の上からは,急性の解体と慢性の解体,また経過の上からは可逆的な解体と非可逆的な解体とに分けられるが,実際の臨床類型に照応させてみると,次のような代表型に分類される。(図)
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