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I.はじめに
初老期変性疾患の1つであるPick病は病理学的には葉性萎縮を呈するために,特に前頭葉や側頭葉に関連した巣症状が発現しやすい。なかでも,失語症状の出現頻度は高く,小阪10)の本邦49例の報告によれば,39%に明らかな失語症状が認められ,76%に何らかの言語機能障害が認められている。しかし,Pick病が示す失語症と脳血管障害による失語症との間には幾つかの相違点を指摘できるようである。
Pick病の示す言語機能障害については,C. Schneider(1927)19)に溯るが,彼はPick病の臨床経過を3期に分類している。I期では欲動の抑制欠如などの人格障害が生じ,II期では語漏,反響言語,滞続言語などが出現するするほか,健忘失語や感覚失語などの失語症が明瞭となる。特に滞続言語(stehende Redensarten)はPick病特有の言語症状として記載されている。III期では自発性の減退とともに言語は荒廃し,無動無言に至る。
Luers(1947)12)はさらに詳細にPick病の経過と失語型について報告している。初期においては健忘失語を呈するが,次第に言語理解困難が著しくなり,感覚失語(実際には復唱が良好など,超皮質性感覚失語例が多い)を生ずる。さらに進行すれば全失語を呈するが,最終的には自発性低下の結果,緘黙に至る。この間C. Schneiderが指摘した反響症状や滞続言語などが生ずる。本邦においても,古川(1938)3)に続いて,倉知11),小阪10),羽田4)らの失語症状に関する報告があるが,いずれにおいても前頭葉や側頭葉由来の巣症状が相互に関連しながら言語症状を形成していると考えられた。したがって,Pick病の示す言語症状では,これらの巣症状を総合的にみてゆくことが必思われる。要と
筆者に標題として与えられたverbal stereotypyにっいては,Alajouanine(1956)1)は広くsyllableや語の繰り返しとしてとらえ,各種失語症にみられる症状と考えている。一方,Pick病においてもverbal stereotypyが出現するという考え方もある(Hecaen & Albert)7)。ここではPick病における特有な言語症状として,C. Schneiderの記載に従って滞続言語に限って言及したい。
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