Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
I.はじめに
現在までのところ,感情障害への神経内分泌学的アプローチとして最も注目され,また最も確実な所見があるのは,「視床下部—下垂体—副腎皮質系(HPA-axis)」に関してである。このうち視床下部からのCRF,下垂体からのACTHに関しては,測定法上の制約から所見が乏しいが,副腎皮質から分泌されるコーチゾールに関しては多数のデータが蓄積されてきている。
うつ病,なかでも内因性うつ病における主要な所見としては,
1)コーチゾール分泌の増加,すなわち血漿コーチゾール濃度の中等度上昇,
2)コーチゾール分泌リズムの異常,すなわちコーチゾール分泌エピソード数の増加と夜間コーチゾール分泌の増加による日内リズムの平坦化,
3)コーチゾール分泌反応の低下,すなわち外因性グルココルチコイドであるデキサメサゾン投与に対する抑制反応不全,が指摘されており8,27,34),これらはストレスや感情面の混乱,あるいは服薬の影響ではなく,内因性うつ病における本質的な病態生理を反映したものと考えられている。したがって,これらの指標を活用することにより,うつ病の本態を研究するとともに,うつ病の診断,分類,治療法の選択などに有益な手がかりが得られることが期待される。
本稿でわれわれが取り上げたデキサメサゾン抑制試験(dexamethasone suppression test:DST)は,うつ病に対する神経内分泌学的アプローチの中でもとりわけ,手法の簡便さ,特異性の高さから,最近大きな注目を集めているものである。DSTは元来クッシング病診断のために開発されたものであるが,1960年代後半から精神科領域へ応用されるようになり,Carrollらによって集中的に研究がなされた。彼らは1981年までに,内因性うつ病(DSM-IIIにおけるメランコリーを伴う大うつ病)患者215名とその他の患者153名にDSTを施行し,内因性うつ病診断に感度43%,特異性96%という結果を得た9)。その後多くの研究者によってこの試験が取り上げられ,うつ病の鑑別診断,病型分類,予後予測などに関する有用性が報告されるようになった。
しかし,一方では,うつ病以外の精神障害,例えば神経性無食欲症16),老年痴呆24,32)など,さらには慢性分裂病11)においても異常所見がみられるという報告も出現するようになり,特異性に対する疑問も生じている。また日本ではかつての遠藤12),われわれの予報的報告35),Saraiら28)以外にまとまったデータはなく,しかもそれらの手法,目的も様々であった。
Copyright © 1984, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.