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I.はじめに
1981年7月1日の毎日新聞に評論家緒方彰氏がマスコミ診断というコラムに「ここひと月余りのニュースの重さに平然とし,身ぶるいも感じない人は少なくともジャーナリストではない」と述べ,ポーランド問題,フランスのミッテラン当選からのヨーロッパ情勢,イスラエル空軍の米国製戦闘爆撃機によるイラク原子炉破壊,イランの情勢,アメリカのヘイグ国務長官の訪日キャンセル等を上げて,世界が核を手にしながら疑いと憎しみと恐怖の中でゆれ動いている状態を述べ,「空恐ろしいまでの変化と混迷の度を増し続ける情勢が,濃淡の差はあっても大衆が肌で感ずるような情報として流れ続けている。このたった1ヵ月のことだけで十分である。この情勢を可能な限りの努力で情報を集め,分析し,もし出来得れば神に念ずるほどの気持ちで,それについての判断を大衆に示すべき時であろう。……巨大な日本のマスコミ群は「あの時何をしていた」と後世うしろ指をさされてはなるまい。奥部に迫れない報道に用はない」と結んでいる。
ある事典では,(マスコミの伝達内容は,一般に機械的技術手段を用いて,公開的だが一方的に,また非対人的で間接的に,たくさんの散在している人々に伝えられるものである。従って非個人的な標準型のコミュニケーションになる傾向があるし,巨大化した媒体は,いよいよ組織的に大衆に影響を及ぼし,そのイメージの世界をも左右するに至る)とある。それ故に,メディアポリシーとして国家や資本によるマスコミ政策の規制に止まらず(最近は,意見の多様性がますます尊重されるべき時代であるにもかかわらず,新聞はじめ各種マスメディアの集中化はむしろ自由な言論を阻んでおり,その弊に対処する方策が焦点になってきて,単なる権力によるマスコミ操縦といった次元の発想を離れて,社会的にいろいろな段階で実施される可能性を有しているとある)。又,コミュニティというコトバについては1969年に国民生活審議会答申の中から:--「国民生活行政はきわめて不十分な態勢にあり,なかでも,地域社会に関しては,ほとんどの行政分野の盲点になっている」として,住民の生活環境改善のおくれは地域社会への配慮不足によるとする。そのため,新地域社会ともいうべきコミュニティを育成し,身近な自分たちの地域社会を大切にしようというもの。広域行政がさけばれ,とかく外側に関心が広がろうとするなかで,都市化の進行で失われがちな人間性,隣人に対する無関心,過疎地域にとり残される老人問題など,多くの地域社会の問題に指針を与えている。この構想でいうコミュニティはその構成員が近代的市民意識を持っていること,開放的であることが特色で,そのようなコミュニティの育成は,単なる地域社会の整備といった意味ではなく,未来における地域社会のあるべき姿を示しているとある。
診療所の有床問題に先立って,なぜはじめに,マスコミとコミュニティの問題に触れたかというと,過去のことを措いて,現在から未来への視座で眼を据えると,どうしても,この2つは基本的な問題であり,又,われわれもコミュニティの一細胞として,コミュニティの側から医療問題を眺められる便利さもあるからである。
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