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明るい悪戦苦闘ぶりが面白い
いささか意表を突かれた本であった.書名から伝わってくる第一印象は,誠実に地域の有床診療所で緩和医療に取り組んでいる人々からの,真摯な問題提起が詰まった本なのではないか,つまり,よく理解できるけれども,問題の重さゆえに,読むほうの気分も重くなってしまうような本なのではないか,ということだったからである.そう覚悟して読んでみた.しかし,まず筆者が一読して感じたことは,この本は面白いということであった.有床診療所という入院施設でもあるのに,病院や緩和ケア病棟とはかけ離れて安い,まるで格安ビジネスホテルか民宿並みの入院費しか認められていない医療施設で,しかし質の高い緩和ケアを提供しようと悪戦苦闘している人々の奮闘ぶりが,5つのそれぞれに個性的で味のある物語として展開されているからである.が,悪戦苦闘しているのに,決して暗くもなく,明るい希望すら感じるのである.居直っているようにも見えるが,確信してその苦労を楽しんでいるようでもある.はらはらどきどきもするが,わくわくするような面白さが伝わってくるのである.
そのような観点から言えば,本書の書名は「5人の侍」の方がふさわしかったかも知れないと思った.読後に黒澤明監督の映画「7人の侍」を思い出し,本書に登場する,個性に満ちた5人の医師を「5人の侍」と表現してもよいのではないかと思ったからである.野盗の悪逆非道に蹂躙されていた村人が,その窮状を知った7人の侍の応援を得て,犠牲を払いつつも,野盗に勝利し,自立し,人間の尊厳を回復していく物語は,緩和ケアを求めつつもなかなか得られない人々に,不十分な制度にも関わらず,時には身銭を切り,赤字を覚悟しながらも,それらの人々のニーズに応えようとする5つの診療所の物語と,その底流で共通するものがある.それはどんな困難にあっても,不公正や不条理に対して,やむを得ないとあきらめることなく立ち向かう勇気,あるいは人間性に対する信頼とでも言うべきものなのかも知れない.でも,こんなことを書くと,そんなに肩肘張っていませんよと,軽くいなされそうでもある.それは読めば分かる.だから面白い本になっているのだ.
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