Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
I.はじめに
子どもにおける失行あるいは行為障害の症例報告は非常に少ない。Ajuriaguerra, J. de2)は子どもにみられる失行として,運動実現の失行 apraxiedes realisations motorices,構成失行 apraxie constructive,空間運動失行 planotopokinesie et cinesies spatiales,顔面失行 apraxie faciale,姿勢失行 apraxie posturale,事物に関する失行 apraxieobjective,言語性失行 apraxie verbaleなどをあげているが,子どもにおけるこれらの失行症状は,運動や知能の発達と複雑に絡みあっていて,すべてを失行と言えるかどうかは疑問であると指摘している。成人における失行は,一度獲得された一般行為 praxieがなんらかの脳損傷のために障害を受ける文字通りの失-行 a-praxieであるのに比し,子どもでは,運動,行為,認識,言語機能もまだその発達過程にあり,失行とみえる症状も,先天性の場合にも,後天性の場合にも,種々の神経心理学的機能の発達過程を考慮しながら理解されねばならない。このため,子どもでは,失行 apraxieという術語よりも行為障害 dyspraxieという術語が用いられることが多い。Ajuriaguerraら1)は,1960年のフランス語圏神経学会で,成人の失行に関しても,脳損傷の部位や性質と関係なく,機能崩壊という観点から発達段階上の退行に対応するように,失行を感覚-運動的失行 apraxie sensorio-kinetique,身体-空間的失行 apractognosie somato-spatiale,象徴形成の失行 apraxie de formulation symboliqueに分類しようと試みた。Piaget, J. は同学会で「子どもの行為 Les praxies chez l'enfant」8)についての講演を行ない,Ajuriaguerraらの上記の分類がPiaget自身の発達段階論に対応するものであることに言及している。発達過程にある子どもでみられる行為障害に関しては,とくにこの第2の身体-空間的失行という考えは多くの示唆を与えてくれる。
Copyright © 1981, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.