Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
4.「色名健忘」と分類原理(Zuordnungsprinzip)の欠如
分類検査でみられた患者達の行動の偏倚は分類過程Sortierungsvorgangの障害であることが明らかにされた。すでに述べたように健常者は手本の基本色調に何らかの点で所属する全ての色見本を選択するものであるが,ここで問題にしている障害を有する患者は手本の具体的個別的な印象に頼ろうとする遙かに著しい傾向がある。患者は手本と全く同一の色見本か,色調又は明度といった何らかの観点で極めてよく似た色見本だけを選択するのである。この行動の原因をより正確に理解するために,我々の患者Th. について確かめられた事実を拠所にしよう。それはこの種の患者達の色彩分類検査に於ける行動が皆同じであったという点について我々がこれまで詳述して来たことからいって全ての患者にもあてはまることなのである。
色名呼称に於いても名をあげた物品の色の指示に際してもTh. のとった行動が既に我々に,より原始的なprimitiver行動と特徴づける契機を与えた。色彩分類に於ける彼のやり方も又より原始的な,即ちより現実に近い行動と見做してさしつかえないものであろう。彼が手本と色見本群とをはじめからある一つの観点から見ることはしなかった,例えば前に置かれた色見本が青らしさとか赤らしさとかを目立たせる程度には無関係にはじめから青らしさとか赤らしさとかいう観点から見ることはしなかったという限りに於いて,彼の行動はより非理性的unrationellerでありより生活に近いlebensnäherように思える。一つ一つの色見本の毛糸は患者に対して,その客観的な性質に応じてある時は彩かさによって,またある時は明るさ又は淡さ等によって規定された,一つの特徴的な色彩体験を喚起したのである。従って2つの色,例えば手本と色毛糸の一つが客観的に同一の色調に属しているが明度が異っている場合,例えば手本では彩かさが,もう一つの色見本の方では明るさとか暖かさとかが優勢である故に,両者は彼にとっては必ずしも互いに帰属するところが同じであるように見えるとは限らなかった。例えばある種の赤が極めて強烈に優勢であるような色見本を手本として与えると,彼は自分にこれとよく似た体験を喚起することの出来る色見本を捜し出す。この際に彼が例えば明らかにより明るいかあるいはより暗い赤の色見本を取ってそれと手本とを並べた時でも,健常者が見れば「これも赤」だから十分に該当すると思われるにもかかわらず,患者は取り去って捨ててしまうということになり得るのであった。この色見本の場合彼にとってはまず明るさか暗さの体験の方が強く喚起されてしまい,同属性体験Kohärenzerlebnisではなくて,相互にぴったりこないという印象を持ってしまうので,この色見本が手本に帰属しないのは明らかだと感じられたのである。
Copyright © 1981, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.