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Ⅰ.序論
「疾病論的仮説以上に変転するものはない」(Kisker29))。特にクレペリンの早発性痴呆と躁うつ病の内因性精神病の境界設定の妥当性,精神分裂病の単位性等に対する批判,疑問が少なからぬ数の精神科医から提出されて久しく時間が流れ,最近ではJanzarik25)もこの問題を論じている。このような疾病論の動揺に対して,我々精神科医が,どのように対処し,解決の方法を探し求めればいいのかは数多くの態度があり得ると思うが,疾病論を歴史的に検討することはその一つで,しかもこの問題に対する重要な接近法であると考えられる。何故なら,歴史的分析によって,現状の問題の深みが判ると同時にその発展の力動も分析可能となるからである。バリュク(Baruk)3)をはじめ,数多くの著者たちが指摘するように,フランス精神医学がヨーロッパ精神医学,特にドイツ精神医学に対して与えた影響は大きく,特に前世紀においては,むしろドイツ精神医学をリードし,一つの繁栄の時代を迎えている。この中にあってエスキロール(Esquirol)のモノマニー学説は当時の司法精神医学上大きな論争を惹き起こしただけでなく,その後のフランス精神医学の疾病論の展開に重要な影響を及ぼしている。著者ら30)は1978年に本誌古典紹介でラゼーグ(Lasègue)の「慢性妄想病」を訳し,フランス妄想病の誕生に対するエスキロールのこのモノマニー学説の影響を知り,またこれが精神病質概念の源泉の一つであることも判り,著者自身深く興味を抱いたことがあった。その後幸いにも仏国留学の機会を得,この分野の文献を探り,帰国後モノマニー成立過程について拙論26,27)を書き上げた。今回の展望では,これを基に,モノマニー学説の成立とその後の展開を概括し,またフランス慢性妄想病の誕生,特にマニャン(Magnan)の妄想病について若干の歴史的知見に触れることにする。
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