特集 幻覚
序論
宮本 忠雄
1
1自治医科大学精神医学教室
pp.4
発行日 1980年1月15日
Published Date 1980/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405203042
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一昨年の第1回に引きつづき,昨年も5月31日から6月2日にかけて第2回の「精神病理懇話会・富山」が富山市郊外で催された。その概略は本誌でも木村敏氏によって適切に報告されているので,ここでは省略することにして,ただちに,同懇話会2日目の6月1日午前に開かれたパネルディスカッション「幻覚」について述べよう。
まず「幻覚」というテーマの選択であるが,これは,一昨年の参加者からのアンケート結果を見ても希望が多かったためと,第一回のテーマ「妄想」との連続性などを考慮しながら,慎重に決定した。もちろん,日本だけでなく海外における幻覚研究の現状を考えれば,「幻覚」というテーマが果たして賢明な選択だったかどうかはわからない。一昨年のパネルディスカッションでは司会の笠原嘉氏が「世界の妄想研究をみても近年あまり目新しいものがない」という意味のことを冒頭で強調されたと記憶しているが,同じことは幻覚の分野でも当てはまるし,あるいはそれ以上に研究が停滞しているとも言える。筆者が3年まえに他誌で「幻覚研究の精神病理学的展望」を行った時にもそういう印象はつよかった。そこでも述べたように,戦後の幻覚研究はなんといっても1950年代がピークで,症候論的にも方法論的にも各種の実り多い成果があげられたし,日本でも1962年の日本精神神経学会総会(松本)のシンポジウムで「幻覚」が取り上げられた。ただし,その後は散発的に幻覚関係の論著が発表されるものの,注目に値するほどの研究は出ていないように見受けられる。
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