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小柳は,老年精神障害のうち最も一般的な老年痴呆,アルツハイマー病の脳の超微形態的変化について,数々の新しい知見を提示した。そのうち,筆者にとってとくに印象に残ったのは,一つはアルツハイマー原線維変化の成因に関するものであり,他は老人斑についてである。
アルツハイマー原線維変化が人の老人脳にのみ見出される,特徴的な変化であることは周知のとおりであるが,これの成因についてさまざまの説がある。ことに,正常神経細胞内に存在する線維構造に由来するのではないかという考えは,すでにアルツハイマーがこの変化を見出した当時からあった。それゆえに,原線維変化(Fibrillenveränderung)と名付けられたのである。今日では,神経細胞の正常線維構造に関する知識は当時とは比較にならぬほど,よく分ってきた。そして,神経細胞内の線維構造も他の身体細胞と異なるものでなく,微細糸(microfilament,アクチン),神経細糸(neurofilamentまたはfilament),および微細管または神経細管(MicrotubuleまたはNeurotubule)の3種類から成ることが分っている。神経細胞は長い突起をもつために,このような線維構造がよく発達している。小柳が超微形態的に神経細胞内の神経細糸とアルツハイマー原線維変化の移行を直接写真で図示したのは,卓越した業績といわねばならない(これについて筆者は最近,牛脳より抽出した神経細糸蛋白を抗原として兎に抗体を作り,螢光抗体法によってアルツハイマー原線維変化内に神経細糸蛋白の存在することを証明したが,未だ発表に至っていない)。しかし,どのような原因で,人の脳内にだけアルツハイマー原線維変化が生じるのかは未だ分っていない。
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