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Ⅰ.序論
森田は神経質の症状の発呈を,ヒポコンデリー性基調と精神交互作用によつて説明している。ヒポコンデリーとは森田によれば“心気症すなわち疾病恐怖の義で人間の本性たる生存欲の現われ1)”,であり,また高良によれば“自己の心身の状態をもつて現実に適応し得ないと感ずる不安すなわち適応不安の基調2)”である。精神交互作用とはある感覚感情さらに観念に対して注意が集中されると,それらはより強く意識され,このために,さらに注意がそれらに強く向う,このように交互に作用して,それらが拡大されたものとなる精神過程に対して,名づけたものである。森田はヒポコンデリーの精神傾向を神経質を起す準備状態と考えた。この傾向について森田は先天的の素質を主とするとし,下田は環境の影響で起る3)こととしている。森田はこの素質は“目的に対して自己の力と手段とのみに屈托拘泥する傾向1)”すなわち内向性,完全欲の強い傾向となし,ヒポコンデリー性のたかまりの状態の時,普通にもあり得る身心の状態に注意が向き,これが精神交互作用によつて,症状として固定し,神経質を起すものと考えた。すなわちこの発呈過程はピコポンデリー性の為に,特定の意識を異常と考えて,この意識を自らの意志で,合理的に処理しようとして失敗し,失敗しても処理しようと執着している精神葛藤ともいえる。この葛藤は“はからい”という言葉で表現してもよい。竹山は神経質症状は高次の人格層における葛藤であるといつている4)が,森田のふれている葛藤は意識された葛藤を主としている5)。また精神分析学的立場から新福6),土居7)は精神交互作用を症状と考え,注意を向けしむる条件を意識下に求めている。井村は“森田の精神葛藤は,精神分析学やその影響下にある深層心理学からみると,表層の浅い葛藤を意味している8)”となし池田9),河合10)も同様の考え方をとつている。
かかる見解から,森田は,神経質の治療の要点として,“ヒポコンデリー性基調の陶冶鍛錬,精神交互作用の破壊除去1)”をあげている。井村は“前者は神経質症状を生成するもとである自らの身体や能力に対する不安に耐える訓錬であり,また後者は不安な気分に捉われている生活態度の改革である”。とし,この治療方針としては,“身心の状態を忍受し,事実に即した生き方をとらしむようにしむけること8)”としている。このような生活態度の徹底したものは,不安の気分とか,身体の感やをそのままに受け入れる時に,自然と展開する精神態度である。受け入れるとは,このような感じ,気分に反対観念が意識にのぼつて来ない状態である。すなわち“はからい”の尽きた態度ともいえる。この態度を打ち出すようにしむけることが,森田療法の根本方針であると考える。
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