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I.はじめに
持続睡眠療法は主として興奮状態を示す精神障害者に対する一つの治療方法として,すでに19世紀にWilliam, J. 54)やGriesinger, W. 15)によって麻酔剤を用いて行なわれていた。さらに,Wolf, H. 55),Epifanio10),Kläsi, J. ら26)によりphenobarbital,trional,somnifenなどの睡眠剤を用いた方法が確立され,精神科領域に系統的に導入された。
わが国では下田45)によるsulfonalを主剤とする持続睡眠療法が普及し,その広汎な適応とすぐれた治療効果が認められ,次いでphenothiazine系薬剤などの向精神薬の開発により,王丸37),松岡30),懸田ら23)による睡眠剤に向精神薬を併用する方法が用いられていた。しかし,その後,興奮状態に対しては,向精神薬,うつ病に対してはamitriptyline,imipramineなどの卓越した薬剤の登場や持続睡眠療法の煩雑さなどにより現在,本療法はほとんど行なわれなくなった。しかし,その治癒機転についてはKläsi, J. の心理学説,Epifanioの生物学説,Azima, H. 1)の有機力動説などにより説明されてきたが十分に解明はなされておらず,また持続睡眠療法中の生体の意識状態,とくに睡眠・覚醒状態などについても把握されていなかった。
近年の電気生理学の発展に伴い睡眠の生理学的現象はポリグラフィー的にとらえられるようになり,数多くの知見が得られ,さらに各種薬剤の睡眠に及ぼす影響が追求されている。そこで著者は内因性うつ病の患者の持続睡眠療法下における生体の動態を電気生理学的に記録し,睡眠・覚醒のリズムに及ぼす睡眠剤の影響を継時的に観察し,持続睡眠療法の治癒機転について精神生理学的側面より検討を試みた。
あえてこの時期にこの発表を意図したのは,iminodibenzyl系などのいわゆる三環系抗うつ剤を中心とした抗うっ療法はその有効性と手軽さ故に広く賞用されたが,脳内アミンの代謝に直接影響するこれらの薬物は乱用ともいえる使用法からうつ病の遷延化を招く場合もあることが指摘されている。またかつて広汎な適応とすぐれた治療効果を示した持続睡眠療法の機序を再びみなおすことにより,うつ病の病態に対して一つの見解を示すことになり,さらに睡眠が精神機能に果たす役割を再考することが精神科治療のうえに重要な意味を持ち得るであろうと考えたからである。
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