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精神分裂病の治療論はいまや百花繚乱の観がある。60数年前クレペリンは,「早発痴呆は真の原因がわからないので,目下のところその治療を考えることはできない」と,早発痴呆の全300ページに及ぶ記述のうち治療にはわずか5ページしか割かなかったのであるが,このことばの前半の事情は現在でも変わっていないのに対して,後半の変わり方はめざましい。これほどまでに治療への関心が高まったことには,やはり向精神薬の出現によって多面的な治療的アプローチが可能になったという事実を見過ごすわけにはゆかないであろう。それにしてもこれは容易ならぬ道である。依然手さぐりながら,さまざまの治療的試行が,疾病の原因,誘因,動機,経過などをにらみ合わせながら行なわれているのが現状といえよう。
精神医学総合研究所のシンポジウムも今度で5回目を迎え,当研究所の活動の一つとしてすっかり定着してきた感がある。これまでのテーマをふりかえってみると,その力点はどちらかといえば基礎的な問題におかれていたといえよう。それは発足まもない研究所が,方法論や理論的基礎の検討を通してみずからの,足場固めを行なっている姿の反映でもあったが,開所5年目に入ったいま,そろそろ各論的なテーマに移ってはどうかとの声が所内に高まってきた。それを受けて今回はまず精神医学最大の関心事の一つ,精神分裂病を臨床的な角度から取り上げようということになった。このことはもちろん,これまで取り上げられたような基本的な諸問題の研究が,一段落したことを意味するものではない。こうした諸問題は研究の基本であって,わずかの期間に解決される性質のものではなく,研究所としてたえず問い続けてゆかねばならないものだということは言をまたない。
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