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何時の世にあっても,医師が生涯研修しなければならぬことは自明のことである。ことに現在のように日進月歩の医学の中にあっては,各自が意欲的に努力しなければ,患者に対して最善の治療ができなくなる。1960年以来W. H. O.(世界保健機構)では医師の卒前・卒後教育に関して,各国の厚生省や文部省に意見を送ったという。わが国でも日本学術会議の医療制度特別委員会では,先ずは専門の科に熟達した医師を作ろうということで,各科の学会において専門医制度が検討されることになった。麻酔科の如きは1963年からすでに専門医制度を発足させており,その後他の8科が専門医ないし認定医制度を設けて,数年間特定の病院で研修した者を学会が試験その他の方法で認定している。
精神科においても,十数年前から日本精神神経学会において,専門医制度が検討された。しかし,多くの反論があった。いわく,精神医療の向上を日ざすよりは,エキスパートづくりに口がいき,階層差を作り,再び医局制度を作って,せっかく民主化傾向がみられていたのに時代逆行である。特定の教育病院にのみ,若手医師が集められるため,他の病院へは非常勤医が多く行くことになり医療の質が低下し,患者にしわ寄せがいく。その若手医師は研修の名のもとに数年間低賃金でしばられる。研修病院といえども指導医の数は圧倒的に少なく,制度を作っても実は上らない。もし,本気で指導医が教育に時間を裂くならば,必然的に患者へのサービスが悪くなり,研修病院においてもまた,患者にそのしわ寄せが及ぶ。そんな制度をうんぬんしているより前に,精神医療を改善するためには,しなければならぬ重要事項が多いではないか。時期尚早。その他あげればまだあろう。確かにもっともな点があるので,私もそのような欠点のある制度であるならば,そのままの形で押し進めようとは思わない。
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