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I.はじめに
1950年代のはじめに,フランスのLaboritら1,2)により,遷延強化麻酔(anesthésie potentialisée)の薬力学的手段として用いられた薬物カクテル(cocktail médicamenteux)は,外科的な生体の侵襲に対する生体保護を目的としており,低体温麻酔による外科手術を可能にし,麻酔剤による反射的事故の防止にめざましい効果をあげた。その方法は,外科的侵襲に対して生体側が自律神経系を中心として過剰に反応することを防ぐために,交感神経遮断剤と副交感神経遮断剤とを適当なカクテルにして用いることであった。図1は当時使用された薬物カクテルの1例を示している。これは,現在,われわれが日常の診療の場で,精神分裂病の治療のために用いる処方内容ときわめて類似しているといえる。
精神分裂病の薬物療法としては,最初,フランスのDelayら3)により,chlorpromazineが単味で用いられたが,その後,種々の向精神薬が開発されるとともに,多種類の薬物が併用されるようになり,さらに,副作用として出現するパーキンソン症状を防ぐために抗コリン作用の強い抗パーキンソン剤(抗パ剤)も投与されている。つまり,目的が異なるにせよ,かつて遷延強化麻酔の手段として用いられていた薬物カクテルが,現在では精神分裂病を中心とする精神疾患の代表的な治療剤として用いられているといえる。
ところで,この薬物カクテルを構成する個々の薬物の生体に及ぼす影響については,これまでがなり知られている4,5)。しかし,薬物カクテル全体の相乗作用が長期間のうちに生体に及ぼす影響については,あまりよく知られてはいない。そこで,われわれはこれらの薬物の長期間にわたる服用によって,どのような生体機能の変化が出現しているかを,自律神経機能の側面より捉えようと意図した。本論文では,一連の研究の第一歩として,一地方都市の総合病院併設精神科における調査の結果と瞳孔機能の検討を中心に,これらの問題のありかを探ってみたい。
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