Japanese
English
研究と報告
外傷性失語の残遺状態
Residual Status of Traumatic Aphasia
清田 一民
1
Kazutami Kiyota
1
1熊本大学医学部精神神経科
1Dept. of Neuropsychiatry, Kumamoto University School of Medicine
pp.839-846
発行日 1976年8月15日
Published Date 1976/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405202514
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I.はじめに
本症例は,交通車故による閉鎖性頭部外傷の後遺症として,感覚失語を主徴とする神経・精神症状を示し,受傷から1年半を過ぎた頃,症状固定と鑑定されていたが,その後,徐々に改善されたので,受傷後4年を過ぎた時点で再鑑定を依頼されたものである。本例の言語的機能については,ほとんど回復しているという主張(A論者)と,依然として障害は高度であるという主張(B論者)が対立していた。外傷性失語の予後については,第二次大戦中のソ連邦における頭部戦傷者の報告4)によると,非貫通性(閉鎖性)外傷の場合が,貫通性(開放性)外傷の場合より,はるかに早く回復するという。かつ,言語療法士による積極的な機能回復訓練を行なえば,回復は更に良好で,受傷後3年間,話すことも書くこともほとんどできなかった例(Gloub 40歳)でも,10ヵ月の訓練で著しく改善されたという。わが国では,第二次大戦における頭部戦傷による言語障害の回復について,受傷から10年後のアンケート調査で,まだ自覚的に軽快しつつあったという報告3)があるが,詳細に検討されてはいない。平和時の頭部外傷による失語の長期予後についても,詳しい報告に接しない。かつ,症状固定の時期8)の診断および失語の自然治癒の状態像とその症度の評価など,臨床上問題が多い。本例を通して,これらの点について若干の考察を行ない,大方の御批判に供したい。
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