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I.はじめに
近年の躁うつ病に関する精神病理学的研究の焦点は,主として病者の性格学とそれを踏まえた状況論,とりわけ発病に到る経過の中での両者の関連に向けられている。このような状況論的研究は,躁うつ病の発病時のみにとどまらず,病相の全経過とくに病相終結時,さらに病相間歓期にも敷衍されるべきものと考えられるが,その種の研究4,11)はきわめて少ない。最近の躁うつ病に対する治療は主として諸種の薬物に拠っているが,抗うつ剤があまり有効でない症例も多い。とりわけ薬物治療出現後に却って慢性・反復傾向を示す症例が多くなったという報告9)もあり,そのような症例に対しては長期にわたる経過・予後の展望と状況論的背景を有する対策とがとくに必要と考えられる。これまでの躁うつ病の状況論にあっては,誘発因子が認められる頻度,誘発因として観察される因子の種類,およびそれらの因子の発病に対する意義,さらには誘発の機序などが問題にされてきた6)また,その場合の誘発因子としては比較的急激な状況変化,たとえば転職・地位の昇進・転居・出産などがあげられてきた。しかし,われわれが対象とした慢性・反復性躁うつ病者脚注)においては,そのような比較的急激な状況変化による誘発の問題以外に,日常生活の場である家庭ないし職場での状況が持続的状況5)(Dauersi—tuation)の一要因として大きな役割を果たしているように思われる。そのうち家庭状況については,すでに本論文第1部に述べたが,このような持続的状況は,多くの場合,発病状況というよりは,むしろ病相終結を妨げる,あるいは病相反復を支える因子とみなされる性質を有している。その場合,持続的状況の中で生きつつある病者の人格が,その状況とどのような関わり方をするかがきわめて重要な問題を提供すると考えられる。飯田ら2)も指摘するように,遷延化したうつ病が,むしろ神経症的な印象を与える時に,上述の観点の上に立って対策を講ずることが臨床的にはより妥当であると考えられる。
そこで,以下に症例を呈示しながら,主としてうつ病相の遷延化に関与すると思われる因子について述べ,さらに病者の人格特徴の問題点を治療過程と関連づけながら述べてみたい。なお,われわれが慢性ならびに反復例を対象とした理由は,本報告第1報で述べたように,診断面での困難が解消されることと併せて,問題点が明確に把握しやすいと考えたからである。また,このような規準で症例を選択することによって,症例の純化が行われることも考えられる〔ここで対象とした症例は,本報告第1部でとり上げた症例(13例)の中から選択された〕。
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