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Ⅰ.まえがき
全人口中におけるてんかんの頻度は0.3%ないし0.6%,これに「小児けいれん」を含めると約5%と見積もられる。これは精神神経疾患中,最も頻度の高いもののひとつに属する。現在すでに有効な抗けいれん剤が使用に供されているとはいえ,患者は長期間の服薬を強いられ,かつ根治はしばしば困難であることがあり,その極端なケースは難治てんかんである。
てんかんは発作症状が多様であり,さまざまの病因によるものが包括されている。したがって,てんかんはひとつの疾患単位というより症候群であるといえる。けいれんをひき起こす原因としては,さまざまのものがあり,代謝異常(たとえばフェニールケトン尿症),中毒(たとえば水銀,鉛などの重金属,一酸化炭素,アルコール),脳外傷(たとえば頭部外傷,分娩障害,脳出血),悪性新生物(脳腫瘍),脳の奇形(脳梁欠損など),染色体異常(トリソミーE,D),栄養障害(たとえばビタミンB6依存症,低血糖症),感染症(たとえばインフルエンザ,麻疹),予防接種(たとえば種痘)などが知られている。これらの他に,遺伝素因が原因として重要であり,上述の原因による発病の場合でも,この遺伝素因の関与が大きいと見なされる例が多い。すなわち,発病には遺伝(内因)と外的環境(外因)の双方が影響を及ぼしているといえる。DavenportとMeeks(1911),Conrad(1935〜40)以来,てんかんの遺伝について研究が行われてきたが,一般に外因の研究に比較して,遺伝の研究の立ちおくれが目立つ。しかし近年,新しい研究方法の導入により,さらに研究をすすめることが可能となってきた。その第1は,いうまでもなく臨床脳波学の進歩である。第2は,発作症状の詳細な観察にもとづく臨床研究が進んできたことである。従来から行われてきた研究方法である家族法(family method),双生児法(twin study)に,これら新しい研究手段を加えるならば,てんかんの遺伝の解明に寄与することができると期待される。この小論では,「てんかんの遺伝」に関する最近までの論文をできるだけ多く取りあげて展望を述べる。
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