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まえがき
現在,精神分裂病の治療に広く用いられているphenothiazine系薬剤やbutyrophenone系薬剤などのいわゆる抗精神病薬antipsychotic drugs(神経遮断剤neuroleptic drugs)の長期間の使用が,さまざまな望ましくない身体的な副作用を引き起こすことが最近とくに注目されている。これらのなかには,肥満,内分泌障害,肝障害,眼や皮膚における色素沈着,心電図異常で現される心臓障害,原因不明の突然死,非可逆的な錐体外路性不随意運動などが含まれている。このなかで,遅発性ジスキネジア(tardive dyskinesia),あるいは非可逆性口部ジスキネジァ(irreversible oral dyskinesia)などと呼ばれている,口周部の不随意運動を主とする錐体外路系症状群は,この症状群の多くが抗精神病薬の長期間投与後にはじめて現れること,多くは非可逆性であること,その出現頻度が精神病院の長期入院患者のなかではかなり高いこと,その病態生理の解明が抗精神薬の作用機序とも関連して興味を持たれていること,および現在のところ的確な予防法や治療法が確立されていないことなどの理由で,精神科薬物療法の大きな問題の一つとされている。わが国においても,八木1)が1968年に最初の症例報告を行って以来,この2〜3年のうちにいくつかの研究報告2〜4)や啓蒙的な綜説5,6)が発表されており,昭和48年になって厚生省でも副作用情報7)(No. 1)としてこの間題を取り上げ,一般医家の注意を喚起するとともに,薬品の使用説明書の一部を改訂し,遅発性ジスキネジアに関する項を追加した。
アメリカにおいても,遅発性ジスキネジアの問題は早くから臨床精神医学の大きい問題であった。1967〜1968年にAyd10)およびCrane11)がそれぞれ広汎な綜説を発表して,この症状群の重大性を訴えたが,それ以来,とくにこの数年間に本症状群の頻度,症状学,病態生理,治療,予防などについての多くの研究が発表され12,13),向精神薬療法における本症状群の重大性が広く認識されてきたように思われる。
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