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1887年 “Westnik Psychiatrii”1)および同年の“Jeschenedelnaja klinitscheskaja gaseta”2)に発表した2つの論文に,私は多発神経炎に合併する特異な型の精神障害について記載した。この型の精神障害に精神科医のみならず他の領域の医師が遭遇するのは決してまれなことではないけれども,私のみるところ,医師たちによってほとんど認識されておらず,かつて一度も注目されたことがないといわざるを得ない。さらにこの種の症例の多くは精神科医によってではなく,一般医や婦人科医によって扱われている。何故ならば私が記載したこの精神障害は,精神病以外の疾患,たとえば産褥熱,急性および慢性感染症の経過中に発現することが多いからである。私が観察する機会を得たほとんどすべての症例で,主治医は私が記載した症状の出現によって驚き,その結果神経病の専門医に相談している。しかし専門医もまた,この種の精神障害についてほとんど知らない,少なくとも文献上で特定の病型としての記述はまったく見当らないのである。しかしながらこの病気自身は非常に特徴的である。まず第1にこの精神障害は多発性変性神経炎の症候に合併して出現するという特徴がある。この病気のほとんど全例に多発神経炎の症状が確認されている。無論神経炎の症状が軽微な少数例もあるが,他の症例では神経炎の症状,つまり麻痺,拘縮,筋萎縮,疼痛が著明で,むしろ精神障害がその陰に隠れて目立たなくなる可能性さえある。つぎに神経炎症状との合併とともに,精神症候群それ自身が特徴的である。すなわち記憶力と観念連合の障害がまったく特異的である。総じて,この病気は,理解し難い,かつて記載されたことのないいくつかの特徴を持っている。私は,先述のとおり,この病気が普通は他の病気の経過中に出現するので,医師の関心はすべて後者,すなわち他の病気のほうに向けられ,その結果神経系に現れた合併症には相当の関心が払われていなかったのだと考えている。
実際にこの病気は,しばしば,その発症が気付かれないことがある。何故ならば,この病気は普通産褥熱やチフスなどの重症な疾患の合併症として出現するので,その初発症状は神経系の普通の衰弱あるいは疲労とか,脳の貧血と混同される。発症時には普通患者は嘔吐し,時にはそれが非常に頑固で,著しい衰弱が起こっている。それまで歩いていた患者は,ふらつき,歩行は不確実となり,ついにはもはや立ち上がることができず,臥床してしまう。下肢の麻痺徴候は明らかとなり,そのさいとくに膝関節での伸展や,足や趾の運動が侵されることが多い。非常にしばしば下肢の麻痺徴候も加わり,しかも手や指の運動がまず侵されることが多い。しばしば同時に,腕や大腿に疼痛が現れ,筋は著しく萎縮し,電気刺激による収縮は消失し,拘縮や時には浮腫が出現する。膝蓋腱反射は普通早期に消失する。重症例では四肢は完全に麻痺し,また躯幹筋,膀胱や横隔膜も麻痺し,ついには迷走神経機能の障害による心臓の麻痺も起こしてくる。
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