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やかましい医学の時事問題を離れて,これから精神現象の大河が流れ過ぎる静かな岸辺に読者を御案内しよう。お断りするまでもないとは思うが,このさい案内役には,あの恐ろしい専門語だらけの哲学の手などは借りず,経験的な生理学に属する見解や概念の簡単明瞭な灯火を頼りにすることを,最初にお約束しておく。これ以外に方法はないのだ。―精神的有機生体と称される有機生体の諸現象の展開とその解釈とは,有機的存在であるからこそ,われわれの見るところ,専ら自然科学者にのみ委ねられるべきである。そしてこれら現象の細部に至るまで,有機組織体化された質料の多くの別の諸現象のために近代生理学が創り出し,発展させたのとまったく同じ諸概念,諸法則が適用されることは,これから詳しくお目にかけるとしよう。
神経系における反射作用の概念は,上述の生理学的概念に属する。これはすでに遡ってWhyttおよびHallerの見解中にある概念で,J. W. Arnoldの指摘するとおりすでにUnzerが明確に,さらにわれわれのみるところではReil注)がもっと明確に知っていたとはいえ,これを経験的に根拠づけ,この概念の持つ重要性を余すところなく証明した功績は,M. HallおよびJ. Müllerのものである。反射概念は,熱意をもって仕上げられた神経生理学から,異常に速やかに,医師たちの科学用語ないしは術語として採用されるに至り,そして概念が深められたばかりか広く拡大もされたために,すでに一種の日常語となってしまった。といってもそれは,本来日常茶飯の陳腐なものという意味ではなく,時代に適した必要な思想が普遍的市民権を獲得して学問上の共通財産となった時に,真価を発揮して勝利を誇ることになるような日常性なのである。
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