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I.はじめに
"個人の人生は,ただ1つのlife cycleと,歴史の一節との偶然の一致である"というErikson, E. H. の言葉はわれわれの臨床活動や研究を支える基本理念を的確に表わしている。彼は"親であることparenthood"を精神的健康の第七段階の規準としてあげ,この段階を経たものが"自分自身のただ1つのlife cycleを受けいれ,自分のlifecycleにとって,存在しなければならないし,どうしても代理がきかない重要な人物を受けいれること"つまりego integrityに到達すると指摘した。
Rappaport, D. が,Eriksonの心理-社会的発達理論について"各life cycle相互間の歯車のかみあいcogwheelingを仮定している"と評したが,われわれの関心はまさしく,そのかみあいにある。したがって,逆説的になるが,われわれは"ただ1つのlife cycle"に焦点をしぼってはみるものの実はそのlife cycleに集約的に現われている無限のかみあいを可能な限り展望してみたいと考えているのであり,さらに,かかる展望を欠いた精神医学は成立しないだろうと信じている。ところで,かみあいは無限であり,われわれの視野は有限である。無限の連鎖を1つでも多く具体的に捉えようとする志向は大切であろうが,しかし,このような作業には終りがない。しかも,かみあいの連鎖に関するファイルの頁数が増加したなら,あるlife cycleについてより深く理解できるというものでもない。視座は常に,ある1つのlife cycleのある時点にある。もし視座を変えるとすれば,それは提起される問題が変わった場合に限られよう。そこで,求められることはわれわれの視野の広さと,洞察の深さということになる。あるlife cycleが示す,一見些細なエピソードをも見逃さない注意力と,それが意味するものを推察して臨床的にフィード・バックする理解力がわれわれのアプローチの武器となるわけである。
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