Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
1)膵ラ氏島腫瘍は,その発病より確定診断に至るまでに半数以上が3年以上の長年月を要し,またその誤診名としててんかん,とくに精神運動発作が圧倒的に多いてとがこれまでの膵ラ氏島腫瘍の症例報告をまとめて明らかになったが,この原因はなにに起因するか。
従来,関係論文あるいは教科書において,膵ラ氏島腫瘍の低血糖にもとづく発作は,インシュリン・ショック療法時の症状発現様式とまったく同じであるから,この点に注意すれば,突発的に起こるてんかんの発作とは鑑別が容易であると述べられているが,著者らは,この両疾患に対する鑑別診断のさいの考え方が間違っていることを明らかにした。
2)すなわち膵ラ氏島腺腫患者および身体的健康者について,われわれはインシュリンを分割投与し血糖値を徐々に低下させる場合と,一度に相当量投与し急激に血糖値を低下させる場合を比較検討し,前者の場合には,精神症状のみが前景に生じ,後者の場合はまず著明な発汗などの自律神経症状が前景に生ずることを観察した。膵ラ氏島腫瘍の如きorganic hyperinsulinismの場合には血糖値が徐々に低下して発作を生ずる場合が多く,したがって血糖値の急激な下降をきたすインシュリン・ショック療法時とは,同じ低血糖性発作でも発作発現様式は異なり,むしろ突発的に精神状態の変化や異常行動を生じる点では,てんかんに類似していることを認めた。
3)また,慢性電極植込み家兎を用い,低血糖状態時の脳の電気生理的検索を行ない,扁桃核に高頻度棘波の群発をみた。したがって本疾患は,その発作時の脳電気生理上からも発現する臨床症状は精神運動発作と類似しているものは当然であり,臨床症状を聴取して診断するならば精神運動発作と誤診する危険性は十分考えられることを認めた。
4)したがって,本疾患を精神運動発作と誤診することを避けるためには,従来述べられてきた本疾患の発作は,インシュリン・ショック療法時の発作発現様式および症状と同じであるという考えを捨て精神運動発作様症状の患者に接したならば,常に本疾患を念頭におくことが大切である。
Copyright © 1970, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.