特集 対人恐怖
序文
新福 尚武
1
1東京慈恵会医科大学精神神経科
pp.364
発行日 1970年5月15日
Published Date 1970/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201608
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もし対人恐怖がAnthropophobieの訳語だとすると,この訳はやや異例である。がん恐怖,高所恐怖などすべて「対」を付けない訳になっており,それにならえば「ひと恐怖」でなければならない。しかし,実際われわれが対人恐怖として取扱っているものは,単なるひと恐怖ではなく,もっと複雑多様のものであるので,この方がふさわしい。したがって逆に対人恐怖をAnthropophobieと直訳した場合,内容が外国人に正当に伝えられるかどうか大いに疑わしい。
認識論的にいえば見るものは自己であり,他はすべて見られるものである。ところがその他なるものは見られるものであるとともにまた見るものであり,自己は見るものであるとともにまた見られるものである。いな,見られるだけではない。感じられるもの,評価されるもの,不快がられるもの,迷惑がられるものでもある。このことは,およそ人間が共存するところどこにおいても,変わりはないだろう。対人恐怖の生ずる基盤にはこのような普遍的現実がある。
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