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この座談会のテーマ自体についてすでにいろいろの批判もあろうかと思う。しかしなんとしても茫とした題で結局副題をつけざるをえなくなつた。もつとも事前に参加の先生方を決める段階ですでにこのような内容となることが運命づけられていたともいえよう。また「精神医学の……」ということであつたが,実際には精神病にピントが向いてしまつたことも,本座談会の特徴となつてしまつた。厚生省の2先生の発言のおかげで話題が東京都というかぎられた地域のみではなく,やや普遍的になつたのであるが,それにしても日本の一部分である東京都の,それもまたかぎられた保健所の先生方の話が主となつたことについて異論も出るかとも考えられる。ともあれ3人の保健行政家としてのベテラン先生は随所に経験から滲み出るような名言,苦言をはさまれ筆者などには示唆されることが少なくなかつた。従来精神科臨床医はともするとマクロ的視野をとる立場を忘れがちであるがたとえば保健行政的に考えるにしても,往時の結核対策をすぐ精神病対策に翻訳できるものではない。これは本文でも一部ふれられていることである。また従来の保健行政の方法論的基盤には必要当該者の登録制度があげられよう。本年2月ごろ警察庁は,精神病者は兇悪犯罪をやることが多い,兇悪犯は精神病者が多いと国民に思い込ませるような発表をした。警察でも本気でそう思つているとすればとんでもないデータの読み違いである。このようなことはいまさら始まつたことではないが,このような低い理解度こそ前保健行政的問題点であろう。したがつてもし精神病者の登録制度などを安易に認めればまのぬけた犯罪捜査の片棒をかつぐのみならず,保健所の意図は消しとんでしまうであろう。精神科医療には縦横に入りくんだ操作がまだまだあるのであるが,本誌でも今後逐次とりあげたいものである。
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