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(1)精神病院に入院している精神疾患者について,短期間の入院生活により容易に寛解に達し退院する急性精神疾患者と,長期間にわたる入院生活を経過した後に社会寛解に達し退院する慢性精神分裂病者のそれぞれについて退院時における社会復帰に対する態度を比較し,そこに特異な差異を認めた。その差異のもつとも大きくまた本質的なものは自己評価の混乱として要約しうる。
(2)この社会復帰にさいする自己評価の混乱は,急性精神疾患者においてはほとんど発生しないが,慢性精神疾患者の社会復帰にさいしては必ず発生し,それは病前よりも心理学的により低次,単純な社会生活への復帰の様相,就職状況として表出されている。
(3)慢性精神疾患者における自己評価の低下は一方において長期間の入院生活によつて生じた病院ホスピタリズム,生々とした現実に密着した共同体験的共同生活の不在にもとづく患者の内面的生活の単調化,低格化やあるいは病的過程にもとづく人格欠損による認識の不十分にもとつくが,これらの要因よりもさらに重要な要因として,精神病院をとりまく心理学的障壁としての種々の社会規範が最終的には大きな作用をおよぼしていることが認められ,患者はこれらの社会的問題を解決するにあたつて安易な方法を選び,これが自己評価の混乱,低下として表現されている。この様相を力動的位相心理学的立場から分析,考察した。
(4)精神病院における臨床研究は,精神病院に長期間入院している慢性精神疾患者の精神病理学的研究のうえに,これらの患者の社会復帰を妨げている種々の要因の研究がなされなければならず,このためには今後社会文化学的,社会心理学的連関をもつ臨床病院精神医学の発展が望まれる。
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