Japanese
English
動き
Alcoholics Anonymousの現況
On Alcoholics Anonymous
大原 健士郎
1
Kenshiro Ohara
1
1慈恵医大精神神経科教室
1Dept. of Neurol. & Psychiat., Jikei University School of Med.
pp.797-801
発行日 1967年10月15日
Published Date 1967/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201256
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はしがき
数年前,筆者は土佐の片田舎で1人の飲酒者に会つた。かれには妻と幼ない2人の子どもがあつたが,家業の製紙をかえりみず,終日酒を飲み続けていた。かれの庭には一斗樽が据えられ,かれは朝な夕な手びしやくで飲酒を続けた。酒が切れると,手指は震え,幻覚が生じた。家業は傾き,夫婦間の葛藤も日ましに深刻となり,ついには妻の自殺未遂までひき起こした。筆者はかれの妻に夫を精神病院に入院させて,薬物療法を受けさせるように極力すすめたが,彼女にはどうしてもその決心がつかなかつた。約2年の後,筆者は完全に立ち直つたその男に会つた。かれは一滴の酒も口にせず,家業に励んでいた。かれは高知市の断酒会に属し,その役員となり,かれの妻も断酒会の婦人グループで活躍していた。筆者はこの夫妻から断酒会の内容を聞き,非常に関心を抱くようになつた。当時のかれは,確かに気負い込んでいる傾向がないでもなかつた。かれは,自分の体験談が会の新聞に載つたり,夫婦が会の役員として活動していることが禁酒に役立つているであろうと述懐した。そして現在,かれは禁酒を続け一家には平和が訪れた。筆者は,この一家については詳細な資料をもつている。なぜなら,これは筆者の姉一家だからである。かれの再起を想い出すごとに,筆者は自分がかつて学んだ医学教育のみでは恐らくかれを助けることができなかつたかもしれない,と懸念している。
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