回顧と経験 わが歩みし精神医学の道・16
力動精神医学とJaspersの「精神病理学」
内村 祐之
1,2
1東京大学
2日本学士院
pp.789-796
発行日 1967年10月15日
Published Date 1967/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201255
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終戦と同時に,われわれ精神医学者を動揺させたのは,進駐軍とともに滔々として流れ込んだアメリカの精神医学であつた。言うまでもないことだが,戦時中は外国との交流がほとんど絶えていたから,どんな研究が外国でなされているかを知る由もなかつた。また国内の研究活動も,研究員と物資との不足のため,思うにまかせぬ状態で,少なくとも精神医学の領域では,目ぼしい研究成果が少なく,まして新機軸と言えるほどの研究はなかつたのである。
このような状態であつたから,終戦後,私が期待したのは,諸外国の学界の状況を知ることであつた。第一次大戦後のような,画期的な業績の続出が今度の大戦後にも見られるのではないかと,大きな期待を持つたのである。しかし,この期待は全く裏切られた。取り立てて問題とするような新研究は皆無に近く,その代わりにアメリカから流れ込んできたのは,昔とあまり変わりばえのせぬ,精神分析を基調とした力動精神医学であつたのである。
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