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研究と報告
ムンクの『叫び』をめぐつて—幻覚的意識と創造
Über das "Geschrei" von Edvard Munch. Ein Beitrag zu den Zusammenhängen zwischen der halluzinatorischen Haltung und der Schöpfung.
宮本 忠雄
1
T. Miyamoto
1
1東京医科歯科大学神経精神医学教室
1Aus der Psychiatrischen und Nervenklinik, Tokyo Ika-Shika Univ.
pp.651-658
発行日 1966年8月15日
Published Date 1966/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201050
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I.はじめに——ムンクの『叫び』をめぐる病誌論的諸問題
ノルウェーの画家ムンク(Edvard Munch,1863-1944)の有名な石版画『叫び』(1895)が,狭義の幻覚体験を表現したものであるかどうかはともかく,幻覚的意識ともいうべきものを母胎としてなまなましく生まれ,またそれを可視的にしたものであることについては,後述のように,いくつかの病誌的根拠がある。少なくとも,この絵がひとりの人間に肉薄する圧倒的な「声」の世界をみごとに描き出していることについては,すでに多くの著者たちが一致して認めているところである。たとえば,『絵画と版画における精神医学的主題』1)を編集したLemke, R. は「周囲世界の知覚的変貌」の絵画的表現の1例としてこの絵をあげ,「精神医学の素養のある観察者が先入見なしにながめれば,この絵のなかには,どこか空中からただよつてきて不安をかきたてつつ滲み透つてくる幻覚的な『叫び』と『声』に悩まされるひとりの男の姿を認めるだろう」と述べ,さらにつぎのようなThiis, J. のことば2)を引用している。「黄昏,陽が沈んでゆく。だがそれは絶望した人間の最後の夕べのように,恐怖的なたそがれである。空は炎となり,フィヨルドは血の海となつてうねる。橋,欄干,家,人の姿,すべて火炎の中でゆらめく。
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