特集 最近の性病問題
梅毒の治療をめぐつて
樋口 謙太郞
1
1九州大学
pp.9-14
発行日 1953年11月15日
Published Date 1953/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201280
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はしがき
『梅毒はついに消滅した』といえばそんな『馬鹿なことが』と反問されるに決まつている。しかし現在新鮮梅毒は全くみられないことは事実である。サルバルサンの発見当時これにてTherapiamagna sterilisansの理想は実現したとし,厄介な梅毒はこの世の中から消え去るだろうとの期待が持たれたが,実際には決して減少せず,ことに今次大戦の直後の蔓延は著明にして,なかんずく惡性顕症梅毒の多発がみられた。それにもかかわらず昭和25年頃より漸次減少して来た早期顕症梅毒は昨年末より本年にかけてはその1例にも遭遇しなくなつてしまつた。伝染源を調査しても新しい感染を認めない。かかる事実は公衆衞生的に非常に喜ばしい現象であるが,われわれ梅毒の研究を担当するものにとつては真に新鮮梅毒が消滅したものであるかどうかに疑を抱き,さらに今までかつて見られなかつた減少の理由について関心を深くするものである。
また現在残存し,われわれの日常治療の対象となつている晩期潜伏梅毒では血清反応の陰転困難な症例即ちいわゆる抗療性ないし抗血清反応性梅毒が多く治療に手こずるものであるが,かかるものの意義と処置法についてしばしば質問を受ける。ゆえにこの辺の消息を需められるままに,駆梅療法の沿革ならびに最新療法の概説に附記して簡単に解説しておきたい。
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