特集 精神分裂病の家族研究
はじめに
黒丸 正四郎
1
1神戸大学
pp.265
発行日 1966年4月15日
Published Date 1966/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405200982
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周知のごとく,分裂病の家族研究というと,昔は患者を中心とする家族内遺伝関係の調査であつたり,家族員各自の性格特徴の論議であつた。しかし今回,本学会のシンポジウムとして,この問題がとりあげられたのは,けつして,かような研究を再検討するという意味においてだけではなく,分裂病者をめぐる家族内力動をいろいろの側面から力動的に把握せんとするものである。
従来,分裂病者家族の力動に関する研究として,諸外国ではLitz, T.,Ackerman, N. W.,Wynne, J. などいろいろの業績があるが,わが国においては,今回のこのシンポジウムにおけるがごとき総括的な報告はまだみられなかつた。現在,分裂病の家族研究によつて,その病因が論ぜられるというほどの決定的な決め手があるとは考えられないが,現実の問題として,病者を取り扱ううえにおいて,その家族の構造と力動を把握せぬかぎり,その治療は一歩も前進しないのではなかろうか。向精神薬の進歩や,心理療法,生活療法,アフターケアの推進によつて,分裂病者の治療はふるい精神病院のもつ閉鎖的な障壁をはずし,新たに社会へと開放されつつあるのが実情であるけれども,病者はいつも,家族という集団を介して,社会と接触している点に注目すべきである。発病の動機,発病による家族各員の動揺,治癒後の家庭および職場への復帰,はては再発の問題まで,どの問題をとつてみても,分裂病者の家族力動をぬきにしては現実は一歩も前進しない。
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