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The British Journal of Psychiatryの本年(1965)4月号にThe Experience of Electro-Convulsive Therapy, by a practising psychiatristと題する匿名論文が載つているが,面白くて参考になる記事である。著者は2クールのE. Sを受けたのであるが(いずれもデプレッションの発作),この記事を書いているのは第二クールの5回目のE. Sが終つてから僅か5日目とことわつている。記述は正確,観察は細かく,若干のユーモアさえ交えて,これがE. S後の記憶障害に悩まされている人とは思えない。記憶障害はE. Sのmost cerebrated effectの一つだとはつきり断わつているが,実務上特にさまたげになるものではないと述べている。人間は偉大な適応能力をもつており,一時的の記憶障害はメモや地図の助けをかりて切りぬけられるという。何より救いになるのは悲観的ムードが一ぺんに吹きとばされることだ。また記憶の再建の様式についても詳しく述べられているが,著者はこれをresyntheseと命名して,これまた患者に生き生きと希望を与える(新しく生れ変つたような印象?)という。著者は第1回のクールでは3回,第2回のクールでは5回のE. Sを受けて完全寛解を来している。また発作中にBeziehungswahn様の(日本のサイカイアトリストはきつとそのようにカルテに書き込むに違いないと,これは私が勝手にドイツ語にしたのである)paranoid ideaに悩まされたことも包みかくさず語つている。しかもこれまた数回のE. Sで完全に消しとぶのである。
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