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I.まえがき
最近数に間における向精神薬の開発は,めまぐるしいほどの発展をみせ,精神疾患の日常の治療に大きな役割をはたしていることはいうまでもない。しかし,精神神経科の日常の臨床で「身体がだるい・疲れやすい」「頭が重い・めまいがする」「食欲がすすまない」「肩がこる・四肢がしびれる」「動悸がする」「眠れない」等々の心気的愁訴をもつた患者は比較的多い。神経症の患者ではこれらの症状が前景に立つていることが多いし,また他の精神疾患者でも種々の治療により,幻覚・妄想・不安・抑うつ感や他の異常体験などは改善されても,心気症状が依然として残存し,完全寛解の域までに達するのに手こずることもある。このような身体を中心にした心気症状に対して,最近では綜合アミノ酸製剤,各種ホルモン,なかんずく蛋白同化ホルモン剤を使用し,精神疾患者の治療に身体的面からの接近をこころみる意図もみられ,ある程度の効果がもたらされている。
ところで,フランスのLaborit一派1〜10)により創まつたアスパラギン酸塩の系統的な基礎的臨床的研究は,同剤が肝・心臓系の諸疾患の治療に,また抗疲労剤として有用であることが発表されるにおよび,わが国でもその製剤が現われ2〜3の知見も報告されている11)12)。ちなみに,本剤はL-アスパラギン酸KおよびMg塩より成り,体内中間代謝を改善賦活するアスパラギン酸の作用と,K・Mg塩の酵素賦活化作用ならびに細胞内主要電解質としての作用とをあわせ有しているという,生体の代謝にとつてきわめて重要な意義をもつている製剤である。われわれはこのL-アスパラギン酸塩(アスパラ錠・注剤)を精神神経科領域の患者に,昨年来試用する機会をえたので,つぎにその臨床経験のあらましを報告してみだい。
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