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Ⅰ.
これは精神医学以前のことかもしれません。けれど,ささやかながら私は,本論を執筆しようとして,思わざるをえません。いうまでもなく,本誌の読者の大部分の方は,精神医学の専門家であることを志し,日夜,研究に,あるいは臨床活動に専心しておられる方々だと思います。が,いかがなものでしよう。本論の表題のような,"離婚"の精神医学的研究といわれたとき,皆さんは,何を連想され,何を期待されるでしようか。素人やそれに諛ねるジャーナリストが,漠然と"離婚"に寄せている関心とは別に,断固これは精神医学的な専門的知識だといえる,精神医学者だつたらだれもが共通していえる何かがはたしてあるでしようか。ごく卑近な例ですが,いま長い間精神病院に入院している精神病患者を夫にもつた妻が,精神科臨床を訪れて,精神医学者であるあなたに,実は私は夫と離婚したいと思つているのですが,専門家の立場から,そうしたほうがいいかどうかご教示願いたいと相談をもちかけられた場合,あなたはどのようにお答えになるでしよう。大変勝手な想像ですが,おそらく大部分の方は,返答に窮し,そんな責任は負いたくないと逃げ腰になられるのではないでしようか。それがこうだつたら,きつと違うでしよう。すなわち,おなじ夫のことで,妻が夫の病気はなおるでしようかどうでしようか,いつごろになつたら退院できるでしようか,と相談をもちかけられたらです。こんなことをいつたら皮肉にとられるかもしれませんが,病気のことでしたら,講議でも聞いたでしようし,教科書でも読んだことがあるでしようが,こと離婚となると,あれほど"精神医学は,わかりきつたことだが臨床医学である"といわれていながら,アカデミズムからは黙殺されているのです。
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