Japanese
English
研究と報告
いわゆる境界例の精神療法的研究(その2)—臨床上境界例と診断された症例群の精神療法的観察と,その概念的位置づけをめぐつて
Clinical studies on the so-called borderline cases through psychotherapeutic observation
三浦 岱栄
1
,
小此木 啓吾
1
,
鈴木 寿治
1
,
河合 洋
1
,
岩崎 徹也
1
,
玉井 幸子
1
T. Miura
1
,
K. Okonogi
1
,
T. Suzuki
1
,
H. Kawai
1
,
T. Iwasaki
1
,
S. Tamai
1
1慶応義塾大学医学部神経科教室
1Neuro-Psychiatric Dept. of Keio Univ., School of Med.
pp.609-615
発行日 1963年8月15日
Published Date 1963/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405200594
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Ⅰ.まえがき
分裂病および境界領域患者に対して,精神分析的ないし力動精神医学的方向づけのもとに,精神療法的な研究が行なわれ,数々の業績や解明がえられているにもかかわらず,往々にして精神療法的アプローチのもつ宿命的ともいえるような研究方法としての制約——たとえば一人の治療者は,長期間の間にきわめてかぎられた数の症例しか扱えないなど——のために個別的には非常な努力をついやし,深い理解をえても,従来の記述精神医学的な次元では,それが主観的あるいは例外的な知見としてしか認められない場合がなかつたとはいえない。またこれらの治療者の側にも,ややもすると特定の自分の個別的経験を,一般化して理論づける危険な傾向がなかつたとはいいがたい。われわれはこのような精神療法的研究の制約を少しでも開かれたものとし,逆に力動精神医学と記述精神医学との間に交流の道をひらく手がかりをえたいと思う。
このような観点に立つて,本来力動精神医学的方向づけのもとに発展してきた境界例の概念について,その精神力学とか精神療法過程の具体的内容を報告する一方,つねに精神医学的次元でこれを検討するこころみをつづけていきたいと思う。ややもすると米国の学者にみられるように,この点の概念上のあいまいさが棚上げされているために,精神力学や精神療法について,どのように輝かしい成果をあげても,学問的理解として受けいれられがたい場合があるからである。
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