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I.はじめに
こんにち,周期性予後良好のいわゆる非定型精神病が,主として分裂病圏内でその相当部分を占めることは,もはや異論をさしはさむ余地がなく,その存在意義は広く一般に承認されつつあるといつてよいであろう。KraepelinからBleulerへの系列で,早発性痴呆から精神分裂病へという疾患概念の変遷に,かねてから疑問を感ずる臨床家は,Kleist,Schroderの分類体系をとり,久しく変質性精神病なる病名を使つていたし,Gaupp,Mauzに始まる混合精神病の病名も同様で,これらの臨床的取り扱いが統一されないままに,しだいに拡大解釈されるようになつた精神分裂病概念の再検討をこころみる趨勢となつている。これはすなわち,われわれが非定型精神病概念の臨床的立場を確立し,あわせて内因性精神病の合理的再編成(分類)を要請するゆえんでもある。
一口に非定型精神病といつても,その範囲をどの程度にとどめるかは,個々の症例を扱つてみるとなかなかむずかしい問題であることがわかる。たとえば単に周期性予後良好という前提だけでは,すでにその中に経過診断を含んでいるので,実際的には臨床上の応用価値がかなり減殺されるとみるべきであろう。また非定型精神病がその臨床像から,精神分裂病群中横断面的に特異的なものをもつているとしても,精神病理,身体病理いずれの面からももちろんその疾患単位性については,なお疑わしいのであり,ただその大部分が分裂病圏内にあつて単に非定型群として一応分離されうる程度にとどまり,本来の分裂病(中核群)と非定型群との境界はやはりあいまいであるといわざるをえない。ことに厳密に考えて,非定型精神病が毎常必ずしも周期性でもなく,予後良好ともいいきれぬという私自身の見解よりすれば,内因性精神病の臨床的分類にあたつてはいつそうの困難を感ずるのである。
しかしながら,初めにかえつて特異な病像と経過をもつこれら非定型群の臨床的特徴を遺伝生物学的基礎の上に立つて検討するならば,遺伝負因の濃厚なことと家族精神病にみる同型出現率の高度なことから,分裂病中核群との差は明瞭であり,ここから内因性精神病の本質的かつ自然的分類が始まるとみられる節がある。われわれの経験上,簡単な負因調査の結果でも,定型群と非定型群では有負因率は前者が30〜40%,後者が50〜60%と相当なひらきが認められる。
このようなわけで,私は非定型精神病の本質的概念を遺伝生物学的根拠ならびに遺伝臨床的事実に求め,遺伝的事項の概説と私見をのべたのち,ふたたび臨床上の問題にかえり,非定型精神病を日常の診療に合理的にとりいれ,他の内因性精神病と対比しつつ,新しい分類試案を提示してみたいと思う。
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