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フランスのBicȇtre病院の外科医P. Broca(1861)がパリ人類学会において,有名なaphémie(後の運動失語)の症例Leborgneに関する臨床解剖学的報告を行なつてからすでに百年が経過しようとしている。以後「失語,失行,失認」に関する諸先人の業績は莫大な量にのぼる。この方面に活躍した代表的な人々としてはJackson,Wernicke Charcot,Pick,von Monakow,Déjerine,P. Marie Kleist,Head,Goldstein,Pötzl等々,いずれもそうそうたる"grosse Nervenärzte"をあげることができる。この1世紀間の史的回顧は先人の功績を忘却しないためにも,今後の研究の導きのためにも是非とも書かるべきものであろうが,ここではその余裕も準備もないので,もつぱら1940年代以後の諸研究を紹介するにとどめる。
大脳病理学はまず臨床的症状と解剖学的局在との対応を研究することから始められた。この大脳局在論的な方向はBroca,Wernickeをはじめ「古典論者」が進んだ路で,Henschen,Kleistにより徹底され,Nielsenらにうけつがれている。しかし大脳病理学は単に局在論にあまんずることはできなかつた。むしろ言語や行為,認知などの象徴機能を失つた人間を対象として,人間性洞察の資料とする試みが現われたことは当然で,Head,v. Monakow et Mourgue,Goldsteinらのたどつた方向がそれであつた。前者の観点が要素的静態的であるとすれば,後者の見地は全体的,力動的である。両者の立場の鋭い対立が失語研究史を多彩にいうどつたことは周知のところである。
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