Japanese
English
研究と報告
慢性幻嗅患者の臨床的研究
Clinical Studies on Patients with Chronic Hallucination of Smell
鹿野 達男
1
,
大塚 俊男
1
,
本荘 暢子
1
T. SHIKANO
1
,
T. OHTSUKA
1
,
N. HONJYO
1
1慶応義塾大学医学部神経科教室
1Psychiatric Dept. Keio Univ. School of Medicine
pp.37-41
発行日 1960年1月15日
Published Date 1960/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405200177
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Ⅰ.序言
ここに集めた症例は幻嗅を主訴としているものでその他の顕著な身体的疾患,たとえば,てんかん発作のあるものや,他の重要な精神症状,たとえば疎通性のえがたいものなどは観察の対象に含まれていない。つまりここでは幻嗅を主症状とし他に身体症状や重要な精神症状を含まないにもかかわらず,その患者の生活が相当高度にまで障害されている症例を観察の対象とした。そもそも幻嗅症状については最近側頭葉の電気生理学的研究の進歩から,いろいろと注目されてきているが,精神医学における臨床的立場からこれをとりあげているものはきわめて少く,わずかにフランスに1,2の断片的な報告をみるにすぎない1),2)。その事実は臨床的に本症状が分裂病の初期の一症状としてあるいは分裂病のその他の重要な症候群のかげにかくれたあまり重要でないささいな一症状として看過されてきたことと,本症状が幻視や幻聴などに比較して幻覚としての体験形式の把握が困難であつたことに由来するのであろう。しかし以下にのべるように幻嗅を主症状としてほかに重要な身体精神症状を伴わず,定型的な分裂病に発展することもなく数年を経過する患者群もたしかに存在するのであり,またそれらについて観察を続けるうちにその症状の出現に関するある種の条件について若干の知見をえたので以下に報告する。
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