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右片麻痺と言語障害の結びつきについてはすでにGoetheのWilhelm Meister's Lehrjahreの中にその記載がある。しかし言語の機能を左大脳半球に定位した最初の人はMarc Dax(1836)であるといわれる。彼の説は後に彼の子であるGustave Dax(1863)にょり公表されるまでは一般の知るところではなかつた。Brocaが有名な2例の剖見からいわゆるBroca中枢(前頭下回F3脚部)の存在を主張した際(1861-64)にも,特に左半球の重要性を強調したわけではなかつた。
利手と言語の結びつきが初めて問題にされたのは“gaucherie cérébrale”という言葉を用いたBouillaud(1865)による。同年Baillarger,Brocaによつてもこの考えは支持されたし,またJackson(1876)も左半球に知的言語と感情言語を,右半球には感情言語だけを定位した。これらの説の根拠となつた症例はいずれも右利患者であつたが,左利患者が右半球の病巣で失語となつた症例もOgle(1871),Jackson(1880)らによつて報告された。このような初期の知見から利手の反対側の半球が優位半球dominant hemisphereであるということが脳病理学の常識となつて今日に及んでいる。すなわち利手の反対側の半球病巣から失語症状が生ずるというのが古典的な法則となり,この法則に反する例(利手と同側半球の病巣に由来する失語)は交叉性失語crossed aphasiaとして例外視されてきた。ところがこの交叉性失語が右利の際にはまれであるのに反して,左利の場合には決して少くないことがその後の知見によつて認められ出してから,利手と半球優位の問題は少くとも左利の場合もう一度考え直さねばならない段階に至つている。最近数年間の文献には左利と半球優位に関するものが散見されるのも決して偶然ではない。しかもこれらの論文に共通な主張によると,利手handednessと“brainedness”(「利脳」とでも訳すべきか)との関係は右手利の場合「左脳利き」ではあつても,左手利の場合には「右脳利き」とは限らぬといわれている。すなわち左利は右利の裏がえしではないとされている。
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